ライトノベルとは一体何なのか。「ミミズクと夜の王」が描く人間の感情◆webPOP
こんにちは、積読ライターのオノキヅクです。
今日の一冊はこちら。
ミミズクと夜の王との出会い
ミミズクと夜の王を読んだのは、2008年の「発見。角川文庫 夏の100冊」の「泣く。」部門に載っていたのがきっかけ。深い緑色と紺色に、鮮やかな赤色が少し不気味に、しかし美しく映える表紙に一目惚れした作品です。
出版は電撃文庫。分類はライトノベル。ページ数は274ページ。サクリサクリと、なんとも読みやすい文体ですが、ライトノベルとは思えない深い世界観に包まれています。ジャンルは一応西洋ファンタジー。しかしこれも、ファンタジーというよりは優しさと再生の物語です。
文庫巻末の解説は有川浩さん。少女漫画のような甘さを含みつつ、本編は恋愛ではない、という点では少し作風が似ていると言えないこともないかもしれませんね。
ミミズクと夜の王の世界観
王がいて、騎士がいて、奴隷がいて、魔物がいて、魔術師がいて、そんな王道ファンタジーの世界。でも、物語は「優しさとは何か」「幸せとは何か」を、おだやかにやわらかに語りかけながら進んでいきます。ファンタジー小説というよりは、絵本を文字で追っているような、そんな淡い世界観。
基本的には、キャラクターに「悪い人」がいません。人の「善意」に心がジンとあたたまる物語。そしてその中にチラリチラリと顔を見せる、人間の暗くドロドロした部分。重く苦しいシーンも出てきます。胸にざらりと嫌な気持ちを残す表現もあります。だからこそ、「優しさ」とは何なのか、自分にとっての「幸せ」とは、相手にとっての「幸せ」とは一体何なのか、リアリティをもって訴えかけてきます。
主人公ミミズクは独特な喋り方をしています。はじめは少し違和感を感じるかもしれません。しかし、この特徴的な喋り方こそ、発する言葉の裏にある感情が胸にぐっと迫る、ミミズクと夜の王の魅力です。
著者:紅玉いづきさん
Twitterのアカウント名は「benitama」となっていますが、正しい読みは「こうぎょく」です。由来は誕生石のルビーからだそうです。
「ミミズクと夜の王」は彼女のデビュー作。2006年に第13回電撃小説大賞の大賞を受賞した作品です。「ミミズクと夜の王」と言う作品自体は、高校時代に発想を得て、大学時代に書き上げ、webサイトで公開していた初めての長編とのこと。
紅玉さんの文章はとても大切にしたいと思わされるものです。文庫化している作品も多くはないので、「読んだら終わってしまう」と読むのを惜しんでしまう作家さんの一人。「ミミズクと夜の王」以外は積読になっていますが、ご本人の書く地の文を拝見していると、どの作品も同じような優しさが滲んでいるんだろうなと期待しています。
誰にでもオススメできる作品
難しい言葉も、ややこしい名前も、長い文章もほとんど出てこないミミズクと夜の王は、本をそんなに読まない人やファンタジーが苦手な人にもオススメできる作品です。それでいてしっかりした世界観と繊細な感情が描かれており、読書好きも十分満足して心に残る物語。
ライトノベルは、ドキドキする冒険物や姫と騎士の王道ファンタジー、イラストに惚れて表紙買い、など、本来は文字情報だけだった本に視覚や聴覚からも情報を加えることができ、読書の世界を広げるジャンルだと思っています。
その点、ミミズクと夜の王の文庫版は表紙でキャラクターが視覚されることもなく、挿絵もない。明るく楽しい王道冒険ファンタジーでもない。ライトノベルっぽくないといえば、そうなのかもしれません。でも、誰にでもおすすめできる読みやすさは、まさに「ライト」ノベルと呼ぶ作品なのだろうと思います。
まだ紅玉いづきに出会っていないのなら、ぜひ。