オノキヅクの積読堂<大人の読書案内文>

「本が好きなこども」を育てるコツと「大人が本を楽しむ環境」の作り方

「空色勾玉」は日本のハイ・ファンタジーの金字塔◆webPOP

こんにちは、積読ライターのオノキヅクです。

 

今日の一冊はこちら。 

空色勾玉/荻原規子

単行本、文庫、Kindleと揃っています。

 

空色勾玉との出会い 

私が空色勾玉を初めて読んだのは小学生のころ。近所でも有名な「本好き」だった私に、近所に住む翻訳家のお姉さんがハードカバーの空色勾玉を貸してくれました。正直、初読ではストーリーの印象があんまり残っていない。一応中学生以上推奨ですしね。当時は難しかったのかも。ただ、「勾玉」とか「巫女」とか、なんだか浮世離れした単語にワクワクして、それまで読んだことがなかった美しい世界観、美しい日本語、と言うよりも「やまとことば」に感動したのを覚えています。水のようにすきとおった、さらさらと綺麗な物語です。

 

再読は中学生のとき。学校の図書館で借りて、そのまま続きのシリーズ全てを一気に読破しました。思えばわたしが和モノファンタジーの沼にズブズブと沈んでいったのは、小学生のときに読んだこの空色勾玉の印象が強く残っていたことがきっかけでした。

 

 

空色勾玉の世界観

物語のベースになっているのは日本神話。なんとなく聞いたことがある神様と、日本にいたらなんとなく信じてしまいたくなる不思議な力。呪文、魔法、ドラゴン、吸血鬼…の西洋ファンタジーも大好物ですが、先祖代々祀っている祠、大昔に神様が隠れた岩屋戸、悪い子の元へやってくる鬼…そんな、なんとなく自分の町にも起こりそうな気にさせる和モノファンタジーの素朴さは、日本人だからこそ感じられる醍醐味なのかもしれません。

以前、蜷川幸雄さんが演出をされた「NINAGAWAマクベス」と言う舞台を見たことがあります。ご存知の通り、「マクベス」は中世ヨーロッパ、シェイクスピアの作品です。「NINAGAWAマクベス」は、物語も台詞も名前も地名も原作通り、ただ服装だけを日本の中世、戦国時代に置き換えてありました。(言外に示される宗教観もキリスト教から仏教になっています。)ただそれだけで、あの難解なシェイクスピアの演劇が、日本人に理解しやすい構造に変わっているのです。

ファンタジーという現実離れした物語を、わたしたちの慣れ親しんだ日本文化に置くだけで、こんなに親しみのある、じわりと心が温まるような物語になるんです。

 

 

著者:荻原規子さん

著者は荻原規子さん。なんと!これがデビュー作ですって!萩原さんは、少年少女がほんのり恋心も抱きながら、大きな歴史の中を強くしなやかに成長して生きていく話を書く作家さんだと認識しています。萩原さんの書く女の子はみんな強い。主人公もそうだけど、敵やライバルとして出てくる女の子は大抵とっても気が強くて高慢で美人。とにかく女の子たちがとても素敵な物語です。少女漫画のような可愛い少年少女。ジュブナイルを描いた王道の児童文学ファンタジーを書くのがとても上手な作家さん。

ちなみに初版は88年。当時はまだ児童文学の長編ファンタジーなんてそれほど多くありませんでした。今のように分厚い児童文学がメジャーになったのは、多分ハリーポッターが出回ってからじゃないかしら。わたしも長編をガンガン読み出したのは、父が買ってきたハリーポッターと賢者の石をのハードカバーを1日で読み切ってからです。ちなみに、ハードカバー派です。だって装丁がいいもの。あと、長編は文庫になると上下に別れてしまうことも多いのですが、一気に読めるのもハードカバーの良さ。萩原さんの本は学校の図書館で借りることも多かったので、ハードカバーで読む機会が多かったです。

 

 

ファンタジー好きは必読

長編ファンタジー、いわゆる「ハイ・ファンタジー」も、日本人のハイ・ファンタジー作家さんもかなり増えてきましたが、やっぱり近代のハイ・ファンタジーブームの火付け役として、荻原規子さんの「空色勾玉」は外せません。

ハリーポッターを読んでいるなら小学生でも十分読めるでしょうけど、背景に日本神話があるぶん、神話に触れたことのないこどもには少しとっつきにくいかも。中学生なら古文や古文の授業が進んでいるので、問題なく世界観に入っていけるはずです。児童文学とはいえ、侮るなかれ。大人にも読み応えのある作品です。

ファンタジーが好きなのであれば、ご一読あれ。